ムルマンスク便りVol.9


◇ちぇぶさん(第2期生)の留学体験記


 前回からはじまりました、ペンネーム・ちぇぶさんの海外生活を綴った留学体験エッセイ「オーロラの見える町から」昨年晩秋から今年夏にかけてムルマンスク経済法科大学に語学留学されていたときのドタバタ生活を楽しく紹介して戴いてます。

 結構ボリュームがあり、ユーモアタップリの連続体験記です。これが本当にあった話だから、おもしろい。情景を思い出しついニンマリしてしまいます。

 みなさんも彼女の体験記を読んで、ムルマンスクがどういう町なのか妄想想像してみてください。(本人の了承を得ています。)


ちぇぶさんが舞台で奮闘した
会場、文化宮殿。


第2話 『天使登場!』

「笛を吹いてくれませんか」

 そう頼まれたのは、ここへ来てから一ヶ月くらいたった頃のこと。誘ってくれたのは日本語教室のDさん。Dさんの家のそばで行われる市民音楽会※に、参加しませんかというお誘いだった。ロシアのお祭りと聞いて、私の好奇心がだまっているわけはない。二つ返事で引き受けた。

 当日の待ち合わせはムルマンスク映画館の前。Dさんと留学生のSさんと私とで、バスに乗って行くことになっていた。三人揃ってバス停へ向かう。Dさんはしきりに車の流れを気にしている。私とSさんはバスに乗るのも初めてなので、ちょっと緊張している。すっと一台の車が停まる。タクシーだ。Dさんが運転手さんと二言三言。そうそう、ロシアって行き先と料金交渉してからタクシーに乗るのよね〜、なんて考えていたら、Dさんが私らに乗るように促した。そして、タクシーで会場に行ったのである。

 タクシーは大きな柱のある、美術館とか博物館みたいな建物の前で停まった。少し誇張があるかもしれないが、初めての私にとってはこのように感じたのだ。Dさんに連れられて建物の中へ入る。初めに主催者の人と、司会進行の人と会った。司会の人からは名前の読み方と、ムルに来た目的(もちろん語学留学だ!)、何処から来たかなどを聞かれた。あとで私が出演する前に紹介してくれるらしい。さらに中へ入ると、音楽が響いていた。ステージではマイクの音取りとスポットライトの合わせが行われていた。

 もう、こんな様子を見ただけで、ドキドキ。
 だって、実は私、
日本でも一度も人前で吹いたことなんてない!
 つまりはド素人。ど、どうしよう。

 もっと小規模の、地域の自治会のお祭りみたいなのを想像していた。だが、

 
これは違うぞ!

 演奏している人たちもめちゃくちゃうまいし、ちゃんとしたホールだし、客席も250席くらいあるぞ!こ、こんなちゃんとしたステージで吹くなんて・・・。ああ、どうしよう。そんな私の迷いをよそに、Dさんがステージへあがってと言った。いよいよ私の調整の番。ドキドキは幾ら言ってもいい足りないくらい。まだ、関係者しかいない時間とはいえ、既に私は緊張のピーク。でも、まだ本当にリハーサルだからと自分に言い聞かせて、なんとかこなした。あ〜、緊張した。も一回リハーサルできないかしら。


 ステージが始まる。二人のフォークソンググループあり、ダンスあり、ロックあり。ダンスはクラシックバレエや民族舞踊やら、はてはベリーダンスまである。Dさんの話によると、私の出番は9番目、Dさんが出演したすぐ後である。観客もたくさんいて、緊張していないと言えばウソになるけど、Dさんの後に舞台に出ればいいことが分かって、ちょっと安心。ま、なんとかなるでしょ。と、いつものお気楽モード。すると、Dさんが出演のため着替えてくるといって席を立った。

 ところが、いつまでたっても戻ってこない。裏で練習しているのかな?と思っていても、順番はどんどん過ぎていく。

 
あっれー!次の次、私の番じゃん。

 そろそろ控え室の方に行ったほうがいいなかな。おそるおそる舞台裏へ行く。それにしても、Dさんはどうしちゃったんだろう。次じゃないか。そこへ司会者の人がきて、「次には休憩が入る。君の出番は休憩の後だよ」と教えてくれた。(な〜んてカッコよく書いているけど、本当はこの時何を言っているのかさっぱり分からなかった。ただ、司会者の人が、アッディハーチといっているので、休憩時間だなということがわかっただけ。順番から言うと休憩後はDさんだが、自分の番ももうすぐということが推察できたのだ)そしてこの休憩時間のとき、司会者の人がわざわざ座席まできてくれて、休憩後トップバッターで私の番だということを伝えてくれた。あれ、Dさんじゃないの?と思ったけど、それをロシア語にして伝えられないもどかしさ。Dさんはどこ?と聞きたくても言葉が分からないもどかしさ。言葉の伝わらない不安と演奏を控えての緊張が私を包む。しかし、司会者の彼はそんな私の状態にはお構いなしに控え室へと連れて行ってくれた。相変わらずDさんの姿は見えない。Dさんの姿が見えないという不安もあるけど、じゃあ、後半始めるよといわれ、あれよあれよという間に私は舞台に立っていた。ステージに立った時は、ライトがとても眩しくて。結果は・・・。

 
ロシアで初舞台を踏んだという度胸は買って欲しい。
 
 ところで、私の演奏が終わっても、Dさんは現れない。もしかして、私たち置いて帰っちゃったのかな?そんな考えがふっとよぎる。でも、そんなことしそうな人じゃないし。とりあえず、自分の番がおわったので、そのうちDさんも現れるだろうと落ち着きながら残りの演奏を聞く。そんなこんなのうちに、演目は全て終了となり、会場はロックコンサートへと流れ込む。いったいDさんは?Sさんと相談しようにも音のうるささに話も出来ず、ロビーへ行く。

 「ねえ、いったいDさんはどこ?」

 私とSさんとで考えても何も分からない。演奏会も終了しちゃったし、周りの人の言葉は分からないし、ここがどこかもわからない、Dさんの居場所もわからない、もしかして、また迷子? いったい私たちはどうすればいいの!? そのとき、

「どうしました〜?」

 と言う声が。に、日本語だ!! 途方に暮れていた私たちにとっては、まさに、天使の声!声の主は日本語教室の生徒さんのEくん。Nさんも居る。Uくんも来た。おお、知った顔が!彼らは音楽会に来ていたのだ。「地獄で仏」とはまさにこのこと。私たちはDさんがいなくなってしまった状況を必死に説明すると、彼らはどこかへ電話をかけまくり、Dさんが足の指を骨折してしまって、病院に行ってしまったということが分かった。んな、アホな!骨折!? でも、これ事実。呆然としている私たちに天使さまの声が。

 「あなたたちは、どうしたいのですか?」

「うちに帰りたい!」

 私たちは二人とも咄嗟にこう叫んでいた。

 そして、私とSさんは天使さまに連れられて、近くのバス停に行き、乗るべきバスを教えてもらって、無事帰宅したのである。私とSさん、またしてもムルマンスクの人に助けられたのである。


 ロシアで初めて笛の演奏をしたということ、案内してくれたDさんが骨折してしまったということ、替わりにEくんたちに助けられたこの音楽会のこと、今でもとても素敵な思い出になっている。 


(第3話につづく)


【注】
市民音楽会・・・ムルマンスク市北部のナヒーモフ文化宮殿で毎年開催される「セーヴェルヌィ・ザーモク祭」のこと。このとき市民が自慢の芸や日頃練習してきた成果を披露し、優勝を決定するというもの。そして同時にヤールマルカ(臨時即売会)も開催され、民芸品などを購入することができます。

【編集局より】
 この体験記に登場するDさんは、日本の伝統文化をこよなく愛する30代の青年パパです。前回の「セーヴェルヌィ・ザーモク祭」では、剣道を披露してくれました。その際に着用したはかまを除く胴着は、日本の書籍をみて自分でみようみまねで作ったそうです。見た感じ、和裁の仕立ても悪くなく、Dさんの器用ぶりと日本伝統文化に対する愛情が伝わってきました。

 またEさんは、日本のアニメ&漫画で日本語を学んでいる、社交的なアキバ系青年です。この体験記には書いていませんが、二人の日本人留学生を送る際気を利かしてビールをおごってくれたようですが、その際に彼が訊いた質問が「ビール飲みますか?」ではなく「ビール飲みますよね?」(^^) 日本の漫画やアニメで登場人物たちがよく使う半ば強引な、そして自分も飲みたいゾという気持ちを暗に言う表現を使い、周囲をなごませたとか。この青年は、日本語だけでなく、その会話を使うタイミングや間合いをよく心得ていると思います。

 ただEさんは現在兵役で日本語教室を長期欠席しています。ロシアでは10代後半〜20代までの全男性に対し、2〜3年間兵役に付くことが義務づけられています。無事に帰還されることを、またクラスのムードメーカーになってくれることを切に祈っています。




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